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わかちあいのひととき「第7回:長引く咳の原因は?~抗酸菌との付き合い方~」

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内科を受診する患者さんに多い症状は、腹痛・発熱・咳といわれています。

長引く咳で忘れてはならない疾患に抗酸菌感染症があります。抗酸菌は土壌や水中などの環境中に広く存在する細菌です。人類は抗酸菌と長い関わりを持ってきました。

100種類以上ある抗酸菌の中で人間の体内でのみ生存できるように進化したのが結核菌です。感染した人が亡くなれば菌も死んでしまうにもかかわらず、細々と生き延びてきたしぶとい菌です。毎年世界中で900万人が罹患し、150万人が亡くなっています。結核菌が厄介なのは空気感染することで、同じ空間にいると患者さんと直接接触していなくても移ってしまいます。感染後、多くは無症状ですが1~2割が発症し、無治療では約半数が死亡します。日本でも明治の産業革命以降、人々が集団で生活する機会が増えて急速にまん延し、昭和30年代まで多くの若者の命を奪いました。高杉晋作、沖田総司、樋口一葉、正岡子規、堀辰雄など、多くの歴史上の人物が若くして結核で亡くなっています。最近ではJOYさんやハリセンボンの箕輪はるかさんが発病してニュースになったのをご存知の方もいらっしゃるかもしれません。日本は今でも中まん延国の扱いで、米国やカナダと比べて約40年遅れています。特に懸念されるのは高齢者、ホームレス、HIV患者、発展途上国からの外国人の間で高い発症率となっていることで、健診を受けることや社会への啓発活動が重要です。

また、ハンセン氏病の原因である「らい菌」も、古今東西の人類を苦しめてきました。らい菌は経皮感染して皮膚と末梢神経を冒します。感染力は非常に低いのですが、見た目や病気に対する誤解から差別の対象となり、患者さんの「人間として地域社会の中で共に生きる」という基本的権利が侵害された歴史が日本でもありました。

そして今、問題になっているのは非結核性抗酸菌症(NTM症)です。結核菌とは異なり、ヒト‐ヒト感染はしないとわれています。代表的なのはMAC菌で、中年女性が罹患して十数年の経過で徐々に進行するタイプが増えており、満足できる有効な治療法がないことや、働き盛り・子育て真最中の女性を直撃することから大きな社会問題となっています。初期には症状はほとんどなく、健診で胸部異常影を指摘されたり長引く咳で医療機関を受診したりして見つかることがよくあります。

抗酸菌は人類にとってやっかいな相手ですが、これからどのように付き合って行くのか、私達のチャレンジは続いていきます。

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