わかちあいのひととき「第11回 様々な声に耳を傾ける」
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私はクリニックでの外来診療の他、職場における労働者の健康管理もしています。そのため、職場で体調を悪くした人の悩みを聞くことが多いのですが、原因が必ずしも職場にあるとは限りません。本人の慢性疾患や難病であったり、夫婦関係や子供の教育に悩んでいたり、親の介護疲れであったり、経済的問題が原因であったりと、多岐にわたります。一人の人間の「公と私」はつながっており、どこかで問題が生じると、大なり小なり食欲低下・不眠・頭痛・倦怠感など健康上の問題となって現れ、ひいては就労にも影響が出てしまうのです。
この1年間、原因不明の体調不良を訴える相談者が増えたように感じています。小生のところに相談に来られる時点では、すでに医療機関を受診して一通りの検査が済んでいることが多いのですが、原因がわからない。職場・家庭環境にも問題はなく、本人も思いあたるところがないが、辛くてたまらない、とお話しされます。
私が、睡眠時間はどれくらいですか?食事は摂れていますか?休みの日の過ごし方に変化はありませんか?友人関係はうまくいっていますか?と、慎重に生活状況を尋ねていくと、その中で見えてくるものがあります。新型コロナウイルス感染症の流行によって、人と人との対面での交流が「悪」となってしまいました。自分のため・家族のため・職場のため・社会のために、常にマスクをつけ人との関わりを避けるようになり、知らないうちに精神的に追い込まれていたのでした。
一方、コロナ禍で元気になった人たちもいます。以前は、わがままだとか、空気が読めないとか、怠け者だとか言われた、いわゆる発達障害や自閉症スペクトラム障害、注意欠陥・多動性障害など、コミュニケーションに障害を持つ人たちです。ソーシャルディスタンスによって、この方たちは周囲の過剰な干渉から、結果的に守られることになりました。
色々な方々のお話を聞いていて、気が付いたことがあります。今回のコロナ禍において、①人が交わること、②違いを認めて互いを尊重すること、の両方が大切であると。以前は相談者のお話を聞くとき、無力感を感じることもありました。今はむしろ、お話を伺い、相談された方に同じように困っている人がいることをお伝えして、情報を共有できることをとてもありがたく感じます。これからも相談者の声を聞き続けたいと思います。